「サルゴン、剣変えた?」
相対稽古のために古戦場へ向かう道のり――屋内で炎の術を使うと二次被害が激しいので外に行けと偽ギュスターヴから苦情が出た、の中、
隣に並ぶアニマに違和感を覚えて、トーワはサルゴンが佩いている剣に目を留めて、口を開く。
「ああ、前のやつが駄目になってしまってな」
するとサルゴンは軽くうなずいて、シンプルな鞘からスッ、と剣を抜いた。
鞘から現れた刀身は彼らが見慣れた石や木ではなく、冷たく光る鉄だ。
「ん、鉄? 木刀はやめたんだ」
「ああ……どうしても、木刀は燃えてしまうんだよな」
「そういえば、この間のモンスター退治の時に剣燃やしてたっけな」
「そうそう、それで仕方なく素手に炎をこめて蟻を潰して」
炎のアニマを剣へこめての攻撃は、目を見張る威力を誇るが、重大な欠点を抱えていた。
大量に込められたアニマにツールが耐え切れず、壊れてしまうのである。
それは力を加減すれば回避できる問題だからお前の怠慢だ、とボルスから度々指摘されるが、
命がけの戦いという時に力の加減を考えるなどと器用なことはできない、とサルゴンは反論しようとして、だいたい言い負かされている。
「その辺り、鉄はいいぞ。木みたいに燃えておじゃんになることも滅多にないし」
「へー、そうなんだ。使いやすそうだし、俺も何か持ってみようかな」
滅多にないということは多少はあったのだろうかという疑問がトーワの頭に湧いたが、
それは自分の身に起こる話ではないだろうと思ってひとまず頭の脇の方へと追いやった。
「ん? 武器を使う気になったのか」
「うーん、そうなような、そうじゃないようななんだけど」
「……って言うと?」
サルゴンは鉄の剣を鞘にしまってから、トーワの言葉に顔を上げる。
身軽さを武器としているトーワは普段から武器を持たず、己の肉体と術のみ――実質的にはほとんど己の肉体のみなのだが、で敵に立ち向かっていく。
その戦い方はまったく、高貴な騎士という意味をもつらしいエーデルリッターという響きとイメージがあわないという声もあり、
トーワ自身も少し考えるところがあるのだろうか、とサルゴンは思ったのだ。
だが、トーワはサルゴンの言葉に首をひねりながら歯切れの悪い言葉を返し、サルゴンもつられるように首を傾げた。
「え〜と、なんて言うか……殴りつつ斬る、みたいな……爪みたいな感じのが欲しいな、なんて」
「ああ、籠手に刃をつける感じか」
「そう、それだ! うまい言い方が思いつかなくてモヤモヤしてたんだよねー」
「そうか、ならよかった」
ぽん、と手を打ちながらのサルゴンの言葉に、トーワは、ぱん、と手を叩いて快哉の声を上げる。
その嬉しそうな様子に、サルゴンもつられて微笑んだ。
トーワはそろそろ二十歳を迎えるらしいが、その割には幼さがあり余って見える、と常々若く見られるサルゴンは思う。
それはトーワのもともとの性分もあるのだろうが、全体的に若さが足りない仲間の若さを補おうとしての行動かもしれない、とも思っている。
もっとも若さが足りないと言っても、そもそも他の面子がそれほど若くないのは揺るがない事実だが。
「でも、そういうものはあまり見たことがないな」
「そっか……見回りがてら探してみようかな」
「周りに気を付けるんだぞ」
「大丈夫だって、サルゴンじゃないんだから財布をスられてもしばらく気が付かないとか、ないない」
「はは、そうか……って、こら」
「へへ」
気楽にそうに言い放ったトーワの頭に、サルゴンは軽く拳をあて――ようとすると、思ったより髪の深くまで拳が埋まった。
ずいぶんと髪の毛を立てて、低身長をごまかしているらしい。
「今日の相対稽古は、みっちりしごいてやるからな」
「やー、勘弁してよ」
言っている内容とはあまり釣り合わない悪戯っぽい笑みを浮かべておもむろに足を止めると、サルゴンは鉄の剣に手をかける。
それに続いてトーワも笑うと、大きく背伸びをして構えを取る。
「じゃ、やりますかー!」
「ああ、全力で打ってこい!」


久しぶり(小説と言うか小話の形式だと約9年ぶり)にエーデルリッターが書きたくなったので。