時は1245年、4月。ギュスターヴがワイドに根拠地を築いてから5年、
ムートンの尽力で住民もギュスターヴに馴染んだ。
多くの部下も集まり、順風満帆の日々が続いていた。
住民A「ギュスターヴ様が来てからすっかり男臭い町になったわね。
おかげで私も男臭くなっちゃって。やだやだ。
住民B「でも、おかげでお客さんが増えたんだし。
住民A「そうね。にぎやかになったものね。
住民B「何かあったの?
兵士「フィニーの国王、つまりギュスターヴ様の父親が亡くなられたそうだ。
ケルヴィン「どういうつもりだ、ギュスターヴ?
ギュスターヴ「俺じゃないよ。
ケルヴィン「そうか。ではどうするつもりだ、ギュスターヴ?
ギュスターヴ「どうするって、何をだ?俺は追放された石ころ以下の出来損ないさ。何の関係も無いよ。
ケルヴィンもスイ王も大好きな母上が生きていれば、テルムかノールへお帰りになられただろうな。
だが、俺はもうあそこに、戻る気はない。
ケルヴィン「石ころ以下とまでは言っていないが、お前はギュスターヴ王の長男だ。
お前にはフィニーを継ぐ権利があるんだぞ。
ギュスターヴ「王の跡継ぎは決まっているはずだ。それに、俺の弟のフィリップもいる。
妹のマリーにも夫がいる。何だったらケルヴィン、お前でもいいさ。
ケルヴィン「いや…私にはヤーデが。
ギュスターヴ「別にフリンでも…。
フリン「ギュスさま〜。あけびを取ってきたよ。
ギュスターヴ「…あー、ケルヴィン、前言はざっくりと撤回させてくれ。
兵士1「なぜギュスターヴ様は出撃の準備をお命じにならんのだ?
兵士2「なんでもケルヴィン様が反対なさっているというぞ。
兵士3「あの方は純粋に変な前髪、じゃなくって、術士だからな。
兵士4「それが事実なら許せん!ケルヴィン様の所へ一揆に行こう!
兵士5「よし、突撃!!
ケルヴィン「ためらっているのはギュスターヴ自身だ。私は彼に王位継承権を主張しろと勧めている。
兵士「本当でありますか?では、ケルヴィン様は我々の考えに賛成して下さるのですね?
ケルヴィン「もちろんだ。ギュスターヴの部屋を掃除してきた数年間はこの日の…
あ、いやいや、ワイドで訓練を重ねてきた数年間はこの日のためだからな。
レスリー「あなたの好きなようにすればいいわ。
あなたについて行くかどうかは、一人一人が決めればいいことだもの。
ギュスターヴ「いや、フリンの選択権は俺が握ってる。
君はどうするんだ、レスリー。ついてくるのかい?
レスリー「そうね、どうしようかな。
ギュスターヴ「お前達の言いたい事は良く分かった。だが、私には軍の指揮をした経験は無い、えっへん。
こんな素人が勝てるほど甘い相手ではないし、
母上の焼いてくれたケーキに、俺がちゃっかりぜーんぶ砂糖入れちゃったくらい甘い相手でもない。
ケルヴィン「あれは本当にひどかった…。
ギュスターヴ「まあそれでだ、私は負けると分かっていて勝負するのは馬鹿だと思う。
どうだ、数千のシロアリと戦った経験のある奴、いや今はそれよりも数千の兵を動かした経験者はいるのか?
ムートン「恐れながら、ギュスターヴ様。
ネーベルスタンをお召上がりになってはいかがでしょうか?
ギュスターヴ「だがムートン、彼は美味くなさそうだ。
自分からも山吹色の菓子を持参して出向いたし、トマス卿からもお口直しを頂いた事もある。
誇り高い人物だけに、先君を陥れた私と共にポッキーゲームはしないだろう。
ムートン「ギュスターヴ様のおっしゃるとおり、今のワイドには掃除・お料理・お洗濯に通じた人物がおりません。
ネーベルスタンは才能ある男です。ギュスターヴ様のために必要です。
私にお任せ願えませんか?
ギュスターヴ「わかった、お前に任せよう。美味しく味付け頼むぞ。
ネーベルスタン「ムートンか、久しぶりだな。相変わらず忙しいのか?
ムートン「ええ、少年。
ネーベルスタン「よせよ、そもそも少年じゃないぞ。
まさか、俺にもう一度、将軍をやれって言いに来たんじゃないだろうな?
それならおとこわりだぞ。(おとこわり?)
ムートン「ーいや、卿はお客様を案内してきただけです。
シルマール「こんにちは。
ネーベルスタン「シ、シルマール先生!お許しを、じゃなかった、お久しぶりです。
ムートン!貴様、やることが汚いぞ。
ムートン「お褒め頂いて光栄です、将軍。
シルマール「私は彼の人生に責任を感じています。教師として彼を導く立場だったからです。
しかしそれ以上に、彼の未来がどうなるのか、彼の運命を知りたい。
ネーベルスタン「それほどの人物だというのですか、あの男が?
シルマール「それはわかりません。
ただ、石ころ以下、もとい術の使えない彼が何処まで行けるのか?それを見届けたいのです。
ネーベルスタン「そうですか。シルマール先生がそこまで言うのなら、私も付き合いましょう。
演歌の花道に、いや違う、彼の運命に。
数日後―――
ギュスターヴ「ムートン、例の件のことだが。
ムートン「塩コショウ少々ですが。
ギュスターヴ「そうか…しかし、俺は将軍にかぶりつく勇気が湧かない。
ムートン「領主がこんなよれよれでは困ります。
ギュスターヴ「おい何をする、放せムートン。
おわり。
書いた奴:清風(2007/08/14、軽く修正)