正規の聖闘士ですから(前) 解説 〜琴座ロクシアスによる戦闘における音楽理論〜




琴「あ、どうも。みんなのアイドル、琴座のロクシアスです。
 今回は、僕のコンサートにお集まりいただきまして――」
鯨「違う」鷲「違う」
琴「てへ。今回は、本編で説明できなかった音楽と小宇宙のお話をしようと思うんです、が」
鷲「ん?」
琴「僕の理論は聖域ではイレギュラーなので、突然そういう話をしても理解ができないんじゃないかと」
鷲「ああ、確かに。で?」
琴「君達には聖域でもメジャーな説明と、ところどころの補足をしてもらおうと思ったんだよね」

●基本のおさらい
鷲「まずは、原作での説明を復習しよう。
 文庫本1巻の鷲星座の聖闘士曰く。
 『聖闘士の闘技は宇宙の開闢に基づいている。宇宙の開闢とは爆発』
 『いわばおまえの肉体も爆発によって生まれた小宇宙の一つ』」
 『真の聖闘士は自己の体内にあるその小宇宙を爆発させることによって超人的な力を生み出す』
 ……ということで」
琴「せんせー、質問。宇宙の開闢は爆発って、どういうことなの?」
鷲「えーと……結論から言うと、オレ達が知ることのない話で……グランドー、解説を」
鯨「宇宙には始まりがあり、爆発のように膨張して今の形になった……という『ビッグバン仮説』があるが、
 これが本格的に提唱され始めたのは20世紀初頭……オレ達が生きる時代から1400年ほど後の話だ」
琴「気の遠くなるような話だね」
鯨「ということで、この『古代ローマ聖闘士』では、聖闘士の闘技の説明が全く違うものになる」
琴「聖闘士は知っていた! でもよかったんだと思うけど」
鷲「そこは時代考証へのこだわりだから」
琴「こだわりなら仕方ないね」
鯨「で、この変容した説明なんだが……」
鷲「前回の冒頭で候補生に聞かせていたつもりだったが、喋っていなかったんだよな、これが」
琴「うわー、ぐだぐだー」
鷲「ということで、ここで説明させてもらおう」

●この話における一般論
鷲「オレ達聖闘士の闘技は、コスモスに基づいている。
 大地(ガイア)を生み出した虚無(カオス)を生み出したもの……そして、秩序や調和のことだ」
琴「あ、これは言ってたね。カオスから生まれた大地が天や海、大気を産み、生き物が生まれていく……。
 この地上の生物もあの星も、全ての生命がコスモスを構成するもののひとつ、って話だね」
鷲「このカオスを産んだコスモスを大宇宙(マクロコスモ)と呼ぶんだ。
 生み出したものが巨大だから大宇宙」
琴「で、元をたどれば大宇宙から生まれた僕ら人間も、
 それと同じように無から有を生み出す力を持っていると」
鷲「そう。でも、大宇宙ほど生み出したものほどもオレ達自身もでっかくないから、
 小宇宙(ミクロコスモ)って呼ぶんだが、長いから『コスモ』。
 で、聖闘士は気合を入れることで自己の体内にあるその小宇宙を大宇宙と調和させ、
 それによって大宇宙の力の一端を借りて、とんでもない力を生み出すってことだ」
鯨「後世の小宇宙についての説明との違いは、超人的な力を生み出す過程の捉え方にある。
 オレ達は『大宇宙の力の一端を借りて』人間離れした技を使うが、後世では『自己の体内にあるその小宇宙を爆発させる』となっているな」
鷲「要するにオレ達としては、聖闘士の技は自分たちだけの力じゃなくて、守護する神から賜った力だっていう解釈なんだよな」
鯨「汝自身を知れ、ということだな。聖闘士はあくまでも人間、人並み外れたことができるのは神の思し召し……と」
鷲「これを『神から授かったなんてとんでもない、これは自分だけの力だ』って主張すると、
 『思いあがるんじゃないぞ』って神様が直々に打ちのめしにくるんだよな。アテナとアラクネの話みたいに」
琴「はい、これが一般的な解釈です。どうもー」

●琴座をはじめとした音楽系聖闘士の解釈
鷲「で、琴座の聖闘士はこれを下敷きにした独特の小宇宙観を持っているわけだ」
琴「僕ら音楽を奏でる聖闘士の闘技も、自分の小宇宙を高めることで大宇宙の力の一端を借りてるんだ。
 それはもちろん僕らだって聖闘士だから、やってることは他の聖闘士と同じなんだよ」
鷲「まあ、そりゃそうだよな」
琴「で、ここからだけど……。僕は、僕らの肉体は大宇宙が奏でる音楽を構成する一つの楽器、
 そして僕らが持つ小宇宙は神様から与えられた旋律(メロディー)なんだと解釈しているんだ」
鷲「……急に詩的になったな」
琴「琴は詩人の持ち物だからねー。つまり、僕らは大宇宙という大楽団の一員で、
 その中でそれぞれ好き勝手な旋律を奏でている――ように聞こえるけど、それは本当は一つの壮大な音楽で。
 残念ながら個人のも全体のも、それがどんな音楽なのかは、神様にしか分からないんだけど」
鯨「紀元前4世紀のピタゴラスの学説と近いな。星は回りながら音楽を奏でる、その星々の音楽もまた宇宙の規則に則った音楽だという」
琴「そう、まさにそれ。それでだね、『天体が奏でている音楽』……ハルモニア・ムンディって呼ばれるんだけど、
 これが音楽の正しい姿で、僕らの音楽はこのハルモニア・ムンディのマネっこなんだ。
 調和のとれた宇宙――マクロコスモね、が奏でる調和のとれた音楽を真似することで、
 ハルモニア・ムンディと同化し――自己の体内にあるその小宇宙を大宇宙と調和させて、
 それで自らの魂を高めて、とんでもない力を引き出すってわけ」
鷲「小宇宙を高めるのに、音楽は必須なのか?」
琴「いや、別に」
鷲「(ズルッ)」
琴「普通に気合を入れるだけでも小宇宙は高まるけど、音楽によってそれをアシストしているってところかな」
鷲「えーと……つまり、理論は色々と回り道をしているように聞こえるが、原理は全然変わらないんだな」
琴「そりゃあそうだよ。最初にも言ったでしょ、ちょっと変わったことはしてるけど、僕らだって聖闘士なんだから」

●暗黒琴座の主張はどうなんですか
鷲「暗黒琴座は『音楽は心地よければいい、正しいも間違ってるもない』って言ってたが、これはさっきの『正しい音楽で』……っていう理論への反論だよな」
琴「これはね、ハルモニア・ムンディを受けて別の学者が唱えた説とかぶるところがあるんだけど……えーと」
鯨「アリストクセノスの学説だな。ピタゴラスは計算から『正しい音階』を導いたが、アリストクセノスは感覚を頼りに『正しい音階』を導き出した」
琴「そうそう、それ。感覚を頼りにしてるけど、そこにはちゃんと秩序があるわけ。
 一切チューニングをしないで好きなように演奏して自分が正しいって言っている暗黒琴座とは、違うんだよ」
鷲「ああ、じゃあアレは自分に都合のいいところだけその学説の一節を拾って取り違えているわけだな」
琴「そうなんだよ。まったく、成人の反抗期ってやだねー」
鷲「……そういうもんかな」

●正しい音楽を使うとこんなことが
鷲「正しい音楽は物体そのものも動かせる、っていう話をしていたが、
 あれは『正しい音楽で小宇宙を高めているから強力な念動力が扱える』っていう主張なのか?」
琴「僕がしたかった話は、そういうやつだね」
鯨「元の意味としては、正しい音楽は石や草木と言った非生物の心――ありもしなそうだが、を動かし、
 自発的に動かすことができる、ということだと思うが」
琴「もちろん本来の意味はそうだけど、あの場においては暗黒琴座君に脅しをかけることが重要だったんだよねー」
鷲「正しい音楽――で威力を高めた本物の聖闘士の力を思い知れ、って?」
琴「そうそう」


琴「……ということで結論としては、『音楽系聖闘士もやっていることは他の聖闘士と同じ』なんだよ」
鷲「こんだけ色々言って、結論はそれか」
琴「丁寧に解説したって言ってほしいなー。では、お付き合いいただき、ありがとうございました」


★今回の理論は、以下のホームページを参考にしました
・Wikipedia「古代ギリシアの音楽」「ピタゴラス」「コスモス (宇宙観)」
・『益楽男グリークラブ』内「研究コラム vol.1合唱対話篇」第4回〜第8回
  http://masuraoglee.web.fc2.com/column/column.html(最終確認日:2016/01/24)
・『Philo-MUSICandPhenomenology』内西洋音楽史「1.古代ギリシア」(1)〜(7)
  http://blog.livedoor.jp/yz_xnaga/archives/18620542.html(最終確認日:2016/01/24)
・小澤克彦 岐阜大学名誉教授『神々の故郷とその神話・伝承を求めて』内「14.神話から哲学へ〜古代ギリシャでの哲学の誕生〜」
  http://www.ozawa-katsuhiko.com/index.html(最終確認日:2016/01/24)

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